目次
魅力的に聞こえた冷風扇の効果
冷風扇を買いました。
ところが3日後に、リサイクル・ショップのオフ・ハウスに売ってしまいました。
どうしてこんなことになったのか、その顛末をお話しします。
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冷風扇を買った経緯(いきさつ)
ある日の午後、コーヒータイムに見るともなしに、テレビショッピングを見ていました。
そこで、冷風扇の宣伝をしていたのです。
出演者の女性たちが次々に、冷風扇の前に立って
などと次々に褒め称えます。
わたしの心に刺さったのはこの言葉でした。
「風がやさしいから、ワンちゃんにいいわねぇ~」
「ペットってエアコンの風が良くないのよねぇ」
我が家では、ビーグル犬を飼っています。
寝るときは、玄関のケージの中なのでエアコンがなく、夏の夜は扇風機で凌いでいましたが、もう少し涼しくしてあげる方法がないだろうか、などと考えていた矢先だったのです。
ワンちゃんにいいわねぇ~
なんと心地よい響きでしょうか。
ほぼ、ここで、買う決断をしていましたが、まだ動き出していません。
翌日の新聞に、冷風扇の広告が掲載されていました。
これには驚きました。
何がって、-7.3℃です。
体感温度 -7.3℃ !!
こんなに素晴らしいものならすぐ買ってあげよう。
愛犬のために、通販の楽天で冷風扇を探して、タワー型の製品を購入しました。
これで、今年の夏は、愛犬も涼しく過ごすことが出来るぞ。
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冷風扇の基本的な構成とはこんな仕組み
実際の内部構造はもっと複雑に出来ていますが、基本的な原理だけを分かりやすく絵にすると、こんな構成の機械です。
下の図のように、濡れタオルに風を送ると冷たい風になって出てくるという仕組みです。
冷たくなるメカニズムは、夕涼みの打ち水と同じで、水分が蒸発する時の蒸発熱で温度が下がることを期待したものです。
実生活で、蒸発熱で温度が下がることを実感できるのは、アルコール消毒のときです。
アルコール綿で皮膚を濡らすと「冷(ひや)っ!」としますよね。
あれは、アルコールが蒸発するときに皮膚の熱を奪っていくからです。
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オフ・ハウスに転売を決断した理由とは
理屈っぽい話をごちゃごちゃするので、最初に結論を書きます。
結論に至った理由は後半で丁寧に説明しているので、続きを読んでください。
- 高温多湿の日本の夏では、吹き出し口の温度は1℃程度しか下がらない。
(体感として温度低下は感じられない) - 吹き出し口の温度が1℃下がっても、換気をしないと室温は下がらない。
- 湿度が高い(蒸し暑い)状態では水蒸気が蒸発しないので、ほとんど効果がない。
- 密閉した室内では単なる加湿器になり、湿度が40%も上がってかえって蒸し暑くなる。
- 冷風扇が活用できる条件は、高温・低湿度、換気がよい所に限られる。
(意外な使い方だが、中東の高温乾燥地域でドアを開けっ放しにして使うのに適している)
結局、どのように活用しても、我が家のワンちゃんの冷房強化には使えそうもないと判断をして、購入からわずか3日でオフ・ハウスに売却しました。
ワンちゃんには、これまで通り、扇風機で対応します。
ここに書いた結論の根拠を下に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
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ここから理屈っぽい話です
目次に戻る打ち水の効果とは
打ち水で気温が何度低下するかは、撒く水の量、その時の気温、湿度、風速などの影響をうけるので、簡単には計算できません。
ただし、天然の打ち水とも言える夕立では、気温が3℃ほど低下して、涼しくなる現象はしばしば観察されています。
ここで、大事なことは、打ち水でも夕立でも、蒸発熱を奪った水蒸気が、風に飛ばされてどこかに去ってしまうことがポイントです。
つまり、水蒸気がその場に留まっていては効果がないのです。
蒸発熱を奪った水蒸気は、内部に熱エネルギーを抱えている爆弾のようなやつです。
こいつが近くにいると、チャンスがあれば熱エネルギーを返してくるので、結局熱収支が変わらないので、涼しくならないのです。
冷風扇においても、蒸発した水蒸気をどこかに追い払わないと涼しくなりません。
窓を閉めた室内では、水蒸気は室内に留まったままなのです。
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クーラーの代わりにはならない
エアコンを使った冷房では、「省エネ設定で冷房温度は28℃にしましょう」と呼びかけています。
省エネの高温設定といえども、外気温が35℃を超える猛暑日であれば、その温度差は8℃にも及びます。
これに対して、打ち水効果はせいぜい3℃低下なので、本質的にエアコンの代わりになるようなものではありません。
実際に測定してみました
購入したのはこんなタワー型の冷風扇です。
品物が届いたので、早速、水を入れて温度の測定してみました。
さぁ、冷風扇で温度が何度下がるのでしょうか。
この日はとても暑い猛暑日で、室内気温が36℃でした。
この写真は、普通の扇風機から出てくる風の温度です。
室内の温度は36.0℃を表示しています。
冷風扇の出口の温度は?
35.4℃って?
あれっ、あんまり下がりませんね。
実は、何回も何回も測定したのですが、その度に0.2℃ほどのバラツキがあって、測定値が安定しないのですが、最も低い温度がこの35.4℃だったのです。
元の気温が36.0℃ですから、0.6℃しか下がっていません。
体感温度-7.3℃はどうしたんだろう。
その後、日を改めて何回もやり直しましたが、マイナス7.3℃どころか、1℃低下にもならず、この日の0.6℃低下がベストでした。
あとで計算した結果で分かったことですが、この様な使い方では理論的にも1℃程度しか温度は低下しないのです。
実験で0.6℃、理論計算で1.1℃でしたから、だいたい理論通りの結果になっているのです。
水蒸気のような気象要素を対象にした実験で、計算値と桁が揃って、これほど数値が一致するのは珍しいことです。
では、広告に出ていた体感温度-7.3℃とは、一体何でしょうか。
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体感温度
あの広告をよく見ると、こんな注意書きがありました。
気温28.7度、湿度25.3%、風速2.1m/s。
体感温度とは、同じ温度でも風が吹いたり乾燥していると涼しく感じる現象を数字で表したものです。
ミスナールの式とはこんなものです。
ミスナールとは、おそらくフランス人の科学者で、体感温度を計算する方程式を作った人です。
広告に表示してある条件の数値で、ミスナール計算式を計算していみると、
気温28.7℃に対して体感温度が21.4℃になりました。
21.4-28.7=-7.3℃ ですから、広告の表示と同じです。
だけど、この数字は、冷風扇とは関係のない数字です。
下の図では気温が28.7℃、湿度が25.3%の条件で、無風の状態(左側の人)は、体感温度が23.9℃です。
右側の男の人は、うちわで毎秒2.1メートルの風を作っているので体感温度が21.4℃まで下がり、涼しく感じています。
体感温度とは、このように風が吹けば涼しく感じるのです。
広告に表示されていた-7.3℃とは、右側の男の人の状態を書いているだけで、冷風扇とはなんの関係もありません。
こんな誤解を招く数字を広告に表示することに、憤りを感じますね。
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吹き出し口温度の理論計算
理論計算と言いながら、この計算は非常に不確定要素が多いので、かなりの部分を仮の数字で固めていますので、かなりいい加減な概算です。
目次に戻る風量の仮定
冷風扇から送り出される空気の量を決めなければなりませんが、データがありません。
仕方がないから、送風口の前に顔を置いて、風速を推定しました。
自転車で走っているくらいの風の強さだと感じたので、時速15km(250m/min)と仮定しました。
吹き出し口の寸法が10cm×33cmだから、1分間の風量は、250m/min×(0.1m×0.33m)=8.3m3/minです。
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蒸発熱量の仮定
水の減量を観察するとおよそ3時間程度で1リットルの水が減ったので、0.3リットルの水が1時間で蒸発すると仮定しました。
水の気化熱は、540kcal/kgなので、0.3リットルの水が1時間で蒸気になると
540kcal/kg×0.3kg/hr=162kcal/hr=2.7kcal/minの熱量を水が奪うことになります。
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空気の比熱
1m3の空気の温度を1℃上昇(下降)させるためには、0.29kcal/m3の熱量が必要です。
8.3m3/minの風量であれば、
0.29kcal/m3×8.3m3/min=2.4kcal/minの熱量で1℃の変化が発生することになります。
ここでは、水蒸気の比熱を無視しているので、これも誤差要因になります。
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理論計算による温度低下は
2.7kcal/min÷2.4kcal/min=1.1℃
いろいろな仮定条件をつけての概算の計算ですが、温度変化は1.1℃程低下するとの結果になりました。
実測では、0.6℃低下だったので、誤差要因を含んだ実験として化学工学的な見地から判断すると、計算値と実測値が極めてよく一致したと言えます。
ただし、この熱量は蒸発した水蒸気が抱えたままなので、どこかに追い出さないと、部屋の温度が下がることにはなりません。
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湿度が上昇して蒸し蒸しする
仮に6畳間を密閉してこの試験をしたとすると、1時間で300グラムの水が水蒸気になって部屋中に充満します。
6畳間の容積はおよそ20m3ですから、1立方メートル当たり15gの水蒸気が増えたことになります。
35℃の飽和水蒸気量は40g/m3ですから、この水蒸気は湿度を40%高めます。
仮に、試験の始まりの時の湿度が40%だとすると、1時間後の試験終わりの湿度は80%にまで高まります。
細かい計算はともかく、冷風扇から蒸発した水蒸気をどこかに飛ばさないと、部屋の湿度が上がってムンムンすることは理解してください。
ちなみに、気温が1℃低下して、湿度が40%上昇すると
・気温36℃、湿度40%、無風状態の体感温度は、29.9℃
・気温35℃、湿度80%、無風状態の体感温度は、33.2℃
となり、明らかに体感温度が上昇して、蒸し暑く感じます。
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結局は加湿器の働き
もしも密閉した室内で、この冷風扇を使うならば、蒸発熱を奪った水蒸気は室内をウロウロしたままなので、どこかで凝結すれば熱を放出しますから、部屋全体の温度は下がりません。
しかも、湿度が上がるので、単なる加湿器の働きをしただけのことになります。
しかも、湿度が高くなると蒸発速度が遅くなるので、ますます効率が悪くなります。
室内の湿度が上がれば、単純に空気をかき回しているだけの役割にしかなりません。
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まとめの言葉
これだけ偉そうに論文(大げさですが)を書けるなら、どうして購入する前にやらなかったんだ、
と、お咎めをいただくかもしれませんが、「恋は盲目」と言います。
テレビショッピングで、女性陣が
「涼しぃ~い」とか「エアコンよりやさしい」
さらには、翌日の新聞広告で「体感温度-7.3℃」
これに惚れてしまったのですね。
購入して試験をした日が猛暑日でした。
こんなに暑い日だから効果がはっきりするだろうと、期待に満ちて試験をしたらたったの0.6℃低下。
こんなはずはない、と何度試しても、ダメ。
ちょっと待てよ!
昔とった杵柄で、ざっと理論計算をしてみると、極めて当たり前の現象が確認できました。
高温多湿の日本の夏には向いていないのです。
こうなったら、100年の恋も冷めてしまします。
いやいや、たった3日の恋だったけれど。
仕方ありません。
人は、こうして成長し続けるのですから。
これから冷風扇を買おうとしている人は、この特性を十分に確認してくださいね。
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コメント
なんとなくでイメージしていた矛盾がハッキリして良かったです。
テレビやラジオショッピングが詐欺に当たらないのか不思議に思ってました。
仕込みの「個人の感想です」なんてのも詐欺的ですもんね~
なんとなく頭の中でイメージしていたことを
ハッキリをさせてもらえました。
テレビやラジオショッピングのやり方が詐欺に当たらないのか不思議に思っていました。
私はタイに住んでいます。気温が高いときは部屋の中でも37℃を上回り、体温より高くなることもあります。しかしエアコンを使わず凌いでいます。
以下は、床がタイルだからできるのですが、日本建築では適さないかもしれません。
床に絞ったタオルを置いて扇風機で風を当てます。
風は網戸の掃き出し窓から外に出るようにしています。
床の温度が低下し、足元がひんやりします。
これは相当効きます。
注意点は、水滴が垂れない程度に絞ったタオルでないと、タイルに水垢が付きますから注意が必要です。
なおタイルに付いた水垢はサンポールや、酢酸などの酸を使い、キッチンタオルなどで30分ぐらい浸しておけば取れます。
それよりも、時々シャワーを浴びて体温を下げることと、肩に濡れたタオルを掛けておき扇風機に当たる。この2点だけでもかなり快適に過ごせます。
気化熱は気化するときに接している個体の熱なら一気に奪えますが、空気のような流動性のある気体ではなかなか温度を下げることは無理っぽいです。たぶん、単位当たりの体積が持つ熱量密度の関係だと思うのですが。
まぁ、気体では期待通りに冷えないと思います・・・・なんてね(笑)
私も冷風扇で失敗した者です。
冷風扇のレビューを扱ったサイトは多数あれど、実測して具体的な数字を出した所はありませんでした。高温多湿な日本向きではないですね。それなのに家電店やテレビショッピングでは、さも涼しくなるような謳い文句で平然と売られている。悪徳商法ですかね(苦笑
NPC10042さん
コメントありがとうございます。
これは、間違いなく悪徳商法です。(キッパリ)
非常に勉強になりました。
この冷風扇を電気自動車に搭載した場合はどうなんでしょうね?
電気自動車のネックとして消費電力の大きいエアコンが搭載できないというのがあるので、冷風扇で少しでも涼が取れればなと。(特に小さなCOMSなど暑そうです)
EVさん、コメントありがとうございます。
理屈の上では、外気を取り入れて排出する通り道に置けば、下流では冷却効果が期待できます。
簡易的な試験としては、ベンチレーターの吹き出し口に水で湿らせたガーゼを垂らしてみると、冷風扇の理屈になります。
しかし、密閉した室内では冷風どころか単なる加湿器になってしまいますので、自動車の車内で冷却効果を期待するのは難しい様な気がします。
実家で冷風扇を使用しているものです。大変参考になりました。
参考にしていただければ、幸いです。
商品が悪いわけではないのですが、密閉した室内で使うと、蒸し暑くなり逆効果になることを、メーカーはきちんと説明すべきだと思います。