伝統的なジャンベは、山羊の皮を張ってロープで締め上げることによって強い張力をかけます。
そのため、年月とともに山羊の皮に疲労がたまり、高音のキレが悪くなり、最悪の場合は破れてしまいます。
皮が破れても悲観することはありません。
胴(シェルとかボディと言います)は使い込むほどにしっかりして来ますから、皮を張り替えれば新品のジャンベに生まれ変わります。
管理人は、ジャンベの皮の張り変えをたくさんやってきました。
その経験を踏まえて、家庭でもできるジャンベの皮の張り方の手順の記録を詳細に公開します。
目次
ジャンベの皮の張り替え手順
今回張り替えるジャンベは、この14インチシェルです。
堂々とした体躯に似合うように、「ゴールド+グリーン」のロープに交換しました。
すでにロープ掛けを終えて、緩めています。
ジャンベの生産工程を見ると全体構造と皮の張り方イメージがつかめると思います。
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皮をカットして水に浸す
最初に山羊の皮を、適当な大きさにカットします。
ジャンベにしようするヤギ皮はなめし処理をしていない生皮なので、乾燥状態では板のようにカチカチで硬いです。
皮を裏返して中央にトップリングを置いて、周囲に10cmほどの余裕を持った円を描きます。
14インチのジャンベのトップリングの直径は、およそ40cmです。
描いた赤いラインに沿って、ハサミでカットします。
結果、直径60cmくらいの大きさになりました。
この円形の皮を水に浸して柔らかくするのですが、一般家庭には直径60cmの円板を浸す水槽と言えば浴槽しかないでしょう。
しかし、生皮を風呂に浸すのはあまり気持ちのよいものではありませんね。
そこで、ゴミ袋を使います。
大きなゴミ袋に山羊の皮を入れてから、水を満たして端を結わえておきます。
このまま、数時間水に浸しておきます。
時間があるなら一晩中放置しておいた方が良いでしょう。
乾燥した皮はカチカチの板のようでしたが、袋から取り出した皮は、こんなにふにゃふにゃになっています。
なめしていない生皮は水に浸すと柔らかくなります。
目次に戻る皮に切込みを入れて巾着結びにする
皮をトップリングに絡ませるために、12ヶ所に切込みを入れます。
まず2つに折って両端部付近にハサミを入れます。
次に一旦開いてから90度回して、同じように両端部に切込みを入れます。
すると、こんな風に4ヶ所に切り込みが入っているはずです。
このあと、うまく角度を調整しながら同様に切込みを入れて、時計の文字盤のように12ヶ所に切込みを入れます。
12ヶ所の切込みを入れた山羊の皮を毛の面を上に向けて広げ、中央にトップリングを置きます。
毛が付いている皮であれば表裏を間違えることはありませんが、最初から毛を除去してる皮の場合は、間違えないように表側をしっかり確認してください。
切り込みの穴に、順番に紐を通します。
軽く縛って、巾着結びにします。
ここで、あまりきつく引っ張らないでください。
皮が広がなければ良い程度にゆるくしておきます。
巾着結びではなく、直径方向に星型に結んでいくやり方もありますが、解くのが面倒なのでわたしは巾着結びを使っています。
好みの問題なので、どちらでも構いません。
また、結び紐を使わずに、直接シェルの上に皮を広げて位置合わせをするやり方もありますが、かなり熟練度を必要とするので、慣れていない人には巾着結び方式をおすすめします。
シェルに乗っけてロープを整える
巾着結びにした山羊の皮をシェルの上にのせます。
正中線(山羊の背骨の線)が真ん中に来るように、位置合わせをきちんと調整してください。
ロープを張ってからでは動かせないので、修正はできません。
外しておいたロープリングを被せます。
たるんでいるロープを手で軽く引き寄せて、全体を整えます。
目次に戻る皮を広げてシワを伸ばす
巾着結びをしていた紐を解いて、皮を広げます。
周囲にシワがよっているので、できるだけ引っ張り出してシワを伸ばします。
完全には伸ばせませんから、折りたたんで重なっているところがない程度に伸ばせばOKです。
上から俯瞰して、正中線や周辺のバランスを確認します。
皮の状態を調整する最後のチャンスですからよく確認しましょう。
何か気に入らない点があれば、2、3ステップ戻ることになってもここで調整します。
目次に戻るロープを手で張る
皮の状態に問題がなければ、たるんだロープを手で引っ張って、ある程度強くロープを張ります。
目次に戻る皮を張る作業でいちばん大事な工程です
3つのことに気をつけましょう。
- 上のリングが水平であること
- 下のリングが水平であること
- 上のリングは、打面から1センチくらい下がっていること
上下のリングが斜めにならないように
ロープで引っ張るリングは、プラモデルのように、決まった枠にカチカチっと嵌まるものではありません。
トップのリングもボトムのリングも、斜めになれる自由位置の範囲が広いのです。
全体のバランスを考えずに片側からギシギシ締めていくと、こんな風に曲がった位置に取り付けられてしまいます。
この曲がった位置は、手締めの段階で決まってしまうので、後から道具を使って強く締めても修正できません。
だから、手締めによる位置決めのバランスは、最も重要な作業なのです。
極端なイラストを描きましたが、実際やってみると軽微な歪みは必ず発生しますので、十分な配慮をしてください。
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打面の高さは2cm狙いで
ヘッド(打面)の高さの調整も重要です。
正常なヘッドは、ロープリングから2cm程度の高さです。
打面が低すぎると、演奏するときにロープ・リングに手が当たってとてもやりにくいし、手が痛くなります。
手締めの段階では、1cm程度の高さ(沈み込み)にしておきます。
あとで道具でしっかり締めると更に1cmほど沈み込んでちょうどよい高さになります。
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手締めは全体を均一に
ロープが十分に緩んでいる段階で、
- 1箇所を締めたら、反対側を締める。
- 90度回して、対面する2箇所を締める。
- 45度回して、対面する2箇所をしめる。
と言う具合に、上のリングと下のリングの全体バランスを見て調整しながら締め付けていきます。
この時、素手で作業するとすぐにマメが出来ますから、皮手袋をはめた方が良いです。
なければ軍手でも仕方ありませんが、写真のような革の作業用手袋があると安心です。
目次に戻るロープを工具で締める
手で引っ張る作業が完了したら、工具を使って締め上げます。
なお、この段階ではまだ皮が濡れているので、仮締めです。
バイスプライヤを使って本格的に締める必要はありません。
皮をヘッドの形に整える程度の締め方だと思ってください。
乾燥してから、もっときちんと締め上げます。
そうは言っても、この仮締め段階でも、叩いたときにぶよぶよではだめで、「ドゥンドゥン」と言う程度の響きは必要です。
専門の工房では、色々工夫して専用の道具を用意しているところもあります。
わたしは、バールにクッションを付けた道具を自作して使っています。
状況に応じて、使い方を工夫しています。
バール1本ですが、うまく使いこなせばかなり強く締め付けることができます。
現地の職人さんのなかには、すりこぎ棒のような丸棒1本で作業する人もいます。
すりこぎ棒一本の職人さんは、ねじりの力をうまく使っているようですよ。
どんな道具でも、慣れ次第ですね。
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余った皮を切り取る
仮締めが終わったら、周囲の余った皮を切り取ります。
乾燥して固くなってからでは作業が大変なので、皮が濡れて柔らかいうちに切り取ります。
現地の職人さんは、カッターの刃でサッサッサーとカットしてしまいますが、本体の皮に傷をつけては大変なので、我々はハサミを使うほうが安全です。
左手で引張ながらハサミの先端で切るとうまくいきます。
小さな切り残しは後からでも修正できますから、あまり神経質になる必要はありません。
こうして、鼓面に毛が生えた奇妙な太鼓が出来上がりました。
叩くと「ボョンボョン」と音がするのが不思議な感じです。
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毛を剃る
鼓面の毛を剃らなければなりません。
発酵処理や毛剃済など最初から毛を除去した皮も販売されています。
仕上がりにあまりこだわらないのなら、毛の処理を済ませた皮を使うほうが張り替えは簡単です。
しかし、今回は、側面に毛を残したワイルドな雰囲気に仕上げたかったので、毛付きの皮を使用しました。
ここで毛を剃るのですが、電気バリカンがあれば刈り上げてしまうところです。
電気バリカンがないので、電気カミソリの「きわ剃り」機能を試してみました。
これは、ダメでしたね。
山羊の毛を相手にして、ほとんど役に立ちません。
現地の作業者は両刃のカミソリでサッサッサーと剃ってしまいます。
やはり、このカミソリが良いようです。
床屋さんのようにハサミで長い毛を切ってから、両刃のカミソリで皮に傷を付けないように注意しながら作業を進めます。
皮に傷をつけてはいけないと慎重になるので、なかなか簡単にはいきません。
現地作業者のように手早くはいきませんが、時間をかければなんとか剃れていきます。
剃り終えたら、濡れた皮の作業は一段落です。
あとは、完全に乾いてからの作業になります。
鼓面の表面だけではなく、リングに巻き込んだ毛皮の部分の乾燥を待つと3~4日以上は必要です。
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鼓面を研磨する
カミソリで剃った状態では、毛のザラザラ感が残っています。
こんな感覚では、太鼓の演奏はできません。
そこで、鼓面をサンドペーパーで研磨します。
わたしは、3段階の研磨をします。
- 100番で荒研磨
- 240番で中研磨
- 400番で仕上げ研磨
下の写真は、左半分だけ100番のサンドペーパーで荒研磨をした状態です。
茶色の毛が生えていた山羊の皮ですが、毛を剃って研磨すると白い地肌が見えてきます。
目で見ても白さが分かりますが、手で触れてみると、ザラザラ感がまったく違います。
サンドペーパーによる研磨の様子は、100番でも400番でも同じなので、写真は省略します。
丁寧に時間をかけて研磨すると、鼓面が気持ち良いくらいすべすべになります。
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側面毛の処理
今回の皮の張り替えにおいては、当初から、ワイルドな仕上げにするために、ヘッド側面の毛を残す方針でした。
だから、サンドペーパーによる研磨は鼓面だけにして、側面は毛が生えたままです。
ここで、床屋さんよろしく、ムダ毛の処理をします。
細かい作業なので、百均で売っている眉毛処理用の小さなハサミを使って、ムダ毛の処理をしました。
ワイルドな感じは毛が残っていれば良いのであって、毛並みを見せるためではありませんから、不要な長い毛はカットしました。
皮の毛の処理としては、下の写真のように周囲に飾り毛を残すやり方があります。
一見豪華に見えるのですが、チューニングなどのメンテナンスの邪魔になるので演奏用のジャンベにはあまり使われません。
それに、皮の大きさとして、トップリングの外周に20センチほどの余裕がないと出来ません。
今回の皮は、外周に10センチほどの余裕しか無かったので所詮無理な話です。
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まとめ
最初は、ジャンベの皮を張り替えるなんて、大胆なことに挑戦するような意識がありました。
しかし、やってみると意外と単純な作業でした。
最も苦労したところは、上下のリングの傾きが斜めになることです。
ここだけは、丁寧に確認しながら作業しなければなりません。
最悪の場合、皮を濡らしてやり直すことも出来ますから、気楽にチャレンジしてみましょう。
顧客の製品を預かるプロの仕事では許されませんが、自分のジャンベであれば我慢出来る範囲です。
楽器店に依頼すると、皮代込みで15,000円~20,000円ほど取られますよ。
趣味で扱っている楽器であれば、自分が皮を張ることでさらに愛着が湧いてきます。
ぜひ、演奏以外の部分でも楽しんでください。
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